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by Ricophoo

キツツキと雨

角川シネマ有楽町に沖田修一監督作品「キツツキと雨」を見に行きました。
前作の「南極料理人」は南極基地という極めて非日常な状態に身を置き、狭い空間で個性の強い観測隊員達が嫌でも顔を突き合わせて日々を暮す中で朝、昼、晩とみんなで一緒に「食べる」という行為を通じて、日常生活で繰り広げられる、ささやかな人間関係のおかしみや日々の生活の積み重ねをほのぼのと描いた素晴らしい作品でした。この「キツツキと雨」はその沖田監督の第二作目ということに加え、何しろ主演は、今や日本映画界を代表する名優“役所広司”さんと「岳」「荒川アンダーザブリッジ」などで様々なキャラクターを巧みに演じ着実にその演技の幅と実力を高めている“小栗旬”さんですから、黙っていても期待は高まります。

南極料理人が「みんなで一緒に食べる」ことがテーマだったのに対し、この「キツツキと雨」では「映画という一つの作品を皆で協力して作り上げていく過程」と、それをとりまく人間たちの関わりあいや成長が大きなテーマになっていますが、それよりも何よりも心が温かくなるような、何気ないユーモアがふんだんに散りばめられていてとても素敵なハートウォーミングな映画に仕上がっています。

物語の舞台は、岐阜県のとある山間の村。木こりの岸克彦(役所広司)は、毎日早朝から仲間と山林に入り、木々を伐採し生計をたてています。2年前に妻を亡くし、今は息子の浩一(高良健吾)との二人暮らし。
慣れない家事と定職につかずふらふらしている息子に、木こり一筋でやってきた無骨な父の怒りが爆発し、うまく気持ちを伝えられない二人は、喧嘩の絶えない毎日を送っています。
そんなある日、村にゾンビ映画の撮影隊がやってきます。
そして、ひょんなことから撮影隊に村を案内する羽目になった克彦。
映画や撮影などといったこととは、今まで無縁の生活を送ってきたので、とまどい困惑しながらも、挙句の果てにゾンビ役でエキストラ出演することになります。
しかし撮影隊の中に、どうみてもやる気のない若者が一人。
そのやる気のなさと気の利かなさが自分の息子と重なるのか、克彦は、気になってその若者に、ついつい声を荒げてしまいます。
実はその若者こそが、自分の思い通りの作品が作れず、撮影隊さえまとめる事ができない気弱な新人監督、このゾンビ映画の監督 田辺幸一(小栗旬)でした。

エキストラを体験したことをきっかけに克彦が撮影を手伝い、挙句村の人々を巻き込んでゾンビ映画の撮影はにわかに活気を帯びたものになってきます。

若い映画監督と、初老の木こり。親子ほど年の離れたこの二人の出会いは、お互いの気持に少しずつ変化をもたらしていきます。

撮影の合間、克彦が杉の木を指さしながら幸一に言います。
「あの杉は25年。あっちのは60年だ。」その違いがよく分からず、きょとんとする幸一に「立派な木になるまでには100年は掛かる」

人間、思い通りにいかない事で悩み、逃げ出したくなる事もあるけれど焦る事はないのだと、克彦の無骨で朴とつな言葉が、幸一のみならず、私たちの胸にも温かく響いてきます。

ある時、なぜ映画をやるようになったのか?と尋ねる克彦に、父が買ってきたビデオカメラをきっかけにして映画を撮り始めるようになったが、長男である自分が実家の旅館を継がなかったことで、父はカメラを買ってきた事を後悔しているのではないかと幸一はそっと打ち明けます。
それに対して、「後悔なんてしてねぇよ!自分の買ってきたカメラが息子の人生変えたんだ!嬉しくてしょうがねぇだろうよ!」と言う克彦の語気を荒げながらも優しさ溢れる言葉が心に染みました。

多分それは、悩みながらもやりたい事をやろうとしている幸一に、いつしか共鳴した克彦が、定職を持たず、やりたいことも見つけられず、多分自分の中で苦しんでいるであろう息子、まして親の自分さえ見放そうとしている息子を思う強い気持ちから吐きだされた言葉ではないかと思います。

克彦は顔を合わせれば喧嘩の絶えなかった息子との関係を、幸一を通して優しい気持ちで寄り添う事ができるようになります。
幸一は克彦の言葉から、困難にも逃げず、自分の力で前に進んでいく勇気をもらい、みんなで力を合わせて行う映画作りの本当の面白さを身体で感じ、映画監督としての自覚に目覚めていきます。

役所広司さんは連合艦隊 山本五十六など重厚な演技も素晴らしいですが、私はダイワハウスのCMで見せる、とぼけた味わいや動揺を隠せないといった、うろたえる演技が特に好きです。
様々な役柄を、緩急自在に演じ分け、芝居を心から楽しんでいるのが観客である私たちも伝わってきます。
この「キツツキと雨」では、役所さんの重厚な演技と、とぼけた味わいの両方が、しっかり堪能できます。

役所広司さん、小栗旬さんの二人の脇を固めるのが、古館寛治さん、平田満さん、伊武雅刀さん、島田久作さん、山崎努さんと言った錚錚たる個性派俳優陣です。

役所さんを始めとした、大先輩に囲まれ、若い小栗さんにとっては役者として大いに成長できた作品になったのではないでしょうか。

ちなみに私は、役所さんの息子を演じた高良健吾さんを、なにげに応援しています。
目に力があって、とてもいい役者になると密かに期待しています。

人は、つい年齢や性別や環境に境界線を引いてしまいます。判りあえるはずがないと、自分で勝手に決めつけて、異種なものに 目をつぶり、耳をふさいで生きています。

かつて壁や国境や境界線を越えることで、文化や文明は広まっていきました。
人と人との出会いも同じことなのかもしれません。年齢や性別や環境を超えた人と人との出会いは、ぶつかりあいながら、理解を深めながら、人間を大きく成長させてくれるような気がします。
by Ricophoo | 2012-02-14 23:01 | 映画 | Trackback | Comments(0)
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