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みをつくし料理帖

懸賞 2012年 11月 24日 懸賞

みをつくし料理帖_f0036354_2211406.jpgいい書物との出会いは、人生を豊かにします。
心が弾み、代わり映えのしない日常から、時に花咲乱れる春の野原へ、夏風の心地よい砂浜へ、薄の穂が揺れる夕暮れの棚田へ、粉雪降る一面の銀世界へと誘ってくれます。



行った事も、見たことも無い世界や遠い町で暮らす人々の暮らし、
時代を遡ったり、未来をこっそりと覗いてみたり、
宇宙船の乗組員になることや殺し屋になることも、
プロ野球選手や戦国武将にもなることもできます。
一冊の本を開くことで、私はいつでも、どこへでも、どんな世界へも自由に旅をし、
どんな人間、どんなものにだってなれるのです。

読書は本当に楽しく私の日常に潤いをもたらしてくれる最高の娯楽です。

今、私が夢中になって読んでいるのは、2009年5月から2012年3月にかけて
角川春樹事務所ハルキ出版より刊行された「澪つくし料理帖シリーズ」全7巻です。

江戸時代を舞台にした、若い女料理人の成長を描いた時代物です。
今まで時代物はあまり手に取る機会がありませんでしたが、
職場近くの本屋さんには、土地柄なのか、なぜか時代物がたくさん置いてあり、
ふと手にしたことがきっかけで、読み始めたら、
もう頁をめくる手が止まらなくなるほど
この「澪つくし料理帖シリーズ」にノックアウトされてしまいました。

物語は1802年、大阪淀川の水害で両親を亡くし、天涯孤独の身となった少女・澪が様々な人々との出会いに助けられながら、女料理人として活躍していく物語です。

神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる家」。
店を任され、調理場で腕を振るう澪は、故郷の大阪と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねていきます。

天才的な彼女の腕を妬み、老舗名料理屋からの様々な妨害を受け、澪は何度もくじけそうになります。
天満一兆庵の再建と幼馴染みの野江との再会を夢に見ながら料理だけが自分の幸せへの道筋と定める澪。
易者が占った、艱難辛苦の降り注ぐという澪の運命「雲外蒼天」。
次から次へと続く苦難の道。
しかしその苦労に耐えて精進を重ねれば、必ずや真っ青な空を望むことができる。
涙を零しながらも、前を向いて、いつかの青空を信じて生きていく澪のひたむきさに心打たれます。
小松原への心に秘める淡い恋の行方も絡ませながら、一途に前を向いて生きる澪の姿に何度涙をこぼした事でしょう。
また澪が作り出す多彩な四季折々の料理の数々はどれもこれも本当に美味しそうで、想像の中だけでは、もう我慢できずに、夜中でも材料を買って作って食べてみたくなるから困ります(なんと作中の料理は巻末に全てレシピが書いてあるのです。)
澪を取り巻く人たちの厚い人情もさることながら、人々の暮らしぶり、四季折々の祭りや行事など江戸の町の様子が丁寧で細やかな描写と正確な時代考証で描かれ、物語にぐいぐいと引き込んでいく作者 高田郁さんの文章の上手さには心から脱帽です。

第一作「八朔の雪」で澪がつぶやきます。
「何かを美味しい、と思えれば生きることができる。たとえどれほど絶望的な状況にあったとしても、そう思えればひとは生きていける。美味しいものを作りたい。」

医師源斎先生が言う「人間が口から摂るものだけが人の体を作るのです」と言う言葉。

先日、東京都写真美術館ホールで観た 河邑厚徳監督のドキュメンタリー作品
辰巳芳子“いのちのスープ”「天のしずくのテーマと重なります。
「愛することは生きること」

私達は食べなければ生きてはいけません。
様々な命を頂き、私達の未来の子供達の命を繋いでいます。
大地の恵みや自然の恵みをたくさん受けて生きています。
自然に感謝し、作ってくれた人に感謝していかなければなりません。
「生きることは食べること」「食べることは愛すること」
愛をもって作り、愛を受けて食べる。食べる人を喜ばせようと心をこめた料理は食べる人の心を笑顔にします。食べる人が笑顔になると作る人の心も笑顔になります。
江戸時代も現代も、いつの時代も流れているものは同じなのかもしれません。

「澪つくり料理帖」シリーズ
第一巻「八朔の雪」
第二巻「花散らしの雨」
第三巻「想い雲」
第四巻「今朝の春」
第五巻「小夜しぐれ」
第六巻「心星ひとつ」
第七巻「夏天の虹」
「澪つくし献立帖」(これは作中に登場しないレシピや「つる家」の間取り、著者のエッセイなどが収録されています)
全巻一気読み必至。

本当に素敵な本と出合うことができました
シリーズがこれからも続いていきますように!

(写真は作中の舞台となる「つる屋」近くの九段下の俎板橋
高速道路が邪魔。)

by Ricophoo | 2012-11-24 21:59 |

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