よってたかって、一目上がり落語会

懸賞 2013年 04月 21日 懸賞

f0036354_1210424.jpg4月20日有楽町のよみうりホールで行われた「春のスペシャルロングバージョン よってたかって、一目上がり落語会」を観て来ました。
今回は、新入学や新生活を迎える4月、幸先いいスタートを切るために、末広がりの、おめでたい数字の8がテーマです。
「数にまつわる落語8」と言う副題が付いていて、今をときめく人気落語家8名による新作・古典なんでもありの落語会です。




第1番手を務めたのは、林家たけ平さん。
演目は「一目上がり」です。
一目上がり】
ご隠居に掛け軸の褒め方を教わった八五郎。掛け軸に書かれている文字を「結構な讃ですね」と褒めれば一目置かれると言われ、大家の家を訪ね、教わった通りに褒めてみるが「讃」ではなく「詩」だと言われ、次に回った家では一休禅師の「悟(ご)」が綴られていた。さん、しの次は、五と来たら次は六に違いないと思った八
五郎、次に回った家の掛け軸に「結構な六ですね」と言ったら、「馬鹿、これは七福神の宝船だ」と返される。

落語名作集によれば、ここまでが「一目上がり」と言うことになっていますが、たけ平さんは「芭蕉の句(九)」までやったので、実はこの落語は「一目上がり」ではなく本当は「軸ほめ」になります。スタートダッシュで錚々たる共演者を後ろに、若手らしく元気のある落語を聞かせて頂きました。

二番手は、瀧川鯉昇さんです。
3月に新宿末廣亭で鯉昇さんの「ちりとてちん」を聴いて以来、その濃厚な癖の強さと、それでいてサッパリとした後味、浮遊感漂う独特の芸風に完全に嵌りました。
私が市馬さんの次に押している大好きな噺家さんです。今回の共演者の中で一番のベテランなのに、二番手を務めると言う事で「え~!なんで?」と思いましたが、聞いて納得!
演目は鯉昇ワールドを余すところなく堪能できる「二番煎じ」です!
【二番煎じ】
町内の旦那衆が二組に分かれて火の用心の夜回りに出ることになった。
寒風吹きすさぶ中、一回りして番小屋に戻った旦那衆、こっそり用意した酒と猪鍋で秘密の宴会が始まる。しかし急な役人の見回りが来て慌ててその場を取り繕う旦那衆。酒を「煎じ薬」と言ってごまかすが、役人に自分も風邪を引いているといわれ結局、催促されるまま酒を全部飲まれてしまい「煎じ薬はもうありません」と伝える。役人は「では拙者は、もう一回りして来るので、二番を煎じておけ」


火の用心の夜回り部分を大幅割愛して宴会部分がメインの鯉昇式「二番煎じ」。
いいんです!これが見たかったんです!この人ほど、食べ物を食べる所作の上手い噺家は今のところいないと断言できます。まさに鯉昇ワールド全開!

三番手は今をときめく若手のホープ 春風亭一之輔さんです。
演目は一之輔さんの友達だという三遊亭天どんさん作の新作落語「サンタ泥」。
春のスペシャルというのに季節感を完全に無視したクリスマスネタ!
【サンタ泥】
クリスマスイブだというのに金もなく破れかぶれの落語家の天どん。サンタ泥棒を思いつき、押し入った家には母の帰りを待つ貧しくもプライド高い幼い兄弟がいた。
可愛そうに思った天どんは、ピザとケーキを買って一緒に食べることに。そこへ見回りの刑事が訪ねてきて怪しまれる天どんだが…。


幼い兄弟や刑事とのやりとりなど、クールで強烈なギャグを織り交ぜながらのパンチの効いたドタバタネタなのに思わずぐっとくる人情話に仕上がっていて、さすが「王道の中の型破り」として将来の落語界を背負って立つ頼もしさを感じさせる一之輔さんの落語でした。

四番手は春風亭百栄(ももえ)さんです。
初めて聴く百栄さんは落語手帳によると、エキセントリックな新作派だということで、今回楽しみにしていた噺家さんの一人です。
演目は新作落語の旗手、苦肉の策で会場から4つのお題(「四時起き」「魚河岸」「皮の財布」「酔っ払い」)をもらい、突如始まった「4題噺」です。
【四題噺】
朝の四時に魚河岸に行く夫を起こすジャム好きの妻。夫の収入を上げるには値段の高い財布を持つといいと思い込みヤフーオークションで20万円の汚い皮の財布を手に入れることから物語は始まる。収入が増え安心して「止めていたお酒でも飲んだら?」と夫にお酒を奨めたのがいけなかった。酒の席での失敗と財布を無くしたのがきっかけで収入が見る見る減って行く転落人生。ジャムも食べられない生活ですっかり痩せてしまった妻はパート探しを始める。それを見かねた夫は、再び高い財布を買おうとするが、収入が増えてジャムを食べて再び太る妻を思い躊躇する。


やはり今をときめく8人の人気落語家達の夢の競演ですから当然意識するのでしょう。
新作落語の旗手と言われるだけに、乱暴な荒業に出た百栄さん、客席からもらったお題を繋げてのストーリーの組み立ては実に苦しそうでした。
次回を期待したいです。

五番手は三遊亭白鳥さんです。
白鳥さんといえば今年初めに聞いた新作「マキシムド呑兵衛」が印象的でした。
お腹がよじれるほど笑わせてもらったことを思い出し、今回も大いに期待して臨みました。
演目は新作落語「刑務所の5人」。
【刑務所の5人】
刑務所に入ってきたジョージ。粋がる若い新人を迎え入れる5人の囚人達。人どころか、どんなものでも骨抜きにしてしまう指圧師の徳次郎をはじめ、嘘か真か会場を爆笑の渦に巻き込んで笑い死にさせたという罪で服役している落語家の名人。八百長疑惑の罪を被り罪人となった相撲取り。腕がいいが時間がかかり、客からの罵声に逆切れ、客の洋服を切り刻んで刑務所にぶち込まれた紙きり芸人、蕎麦やうどんを食べる物真似が上手く、それを見ていた客がおなか一杯になり帰ってしまうと言うことで営業妨害の罪に問われた芸人など、個性溢れる囚人たち。ある日ジョージの母親が危篤だと知り、一言母親に謝りたいというジョージを何とか母親に合わせてやりたい5人は、それぞれの知恵と力を結集してジョージを脱獄させようとするのだが…?


「マキシムド呑兵衛」ほどではありませんでしたが、期待を裏切らないよく練りこまれたネタに大爆笑。
私の想像ですが、白鳥さんは本や映画をよくご覧になって勉強している方なのだろうなと思います。自分の作られたネタの世界、自分が創造した作品の中の人物を実に活き活きと描き、そして実に上手く演じてくれる。まさに自作自演の映画監督のような落語家さんです。
5人が終わって、ここで仲入り。しばしの休憩です。

今回一緒に行ってくれたのは前に勤めていた職場の友人Sさん。どの落語も手を叩いて笑い転げてくれる芸人が一番喜ぶ関根勤タイプの上客です。そんな彼女は一之輔さんをいたく気に入った様子。
鯉昇さんの芸にも、かなり感激してくれました。残すは市馬さんを彼女が気に入ってくれるかどうか…?フィアンセを親に紹介するような気分です。

仲入り後の六番手は三遊亭兼好さんです。
演目は「六連銭」(真田小僧)。
【真田小僧】
息子が父親に「おとっつぁんの留守におっかさんを訪ねてきたおじさんの話をするが、その代わりにお小遣いをくれ」というから、ただ事ではない話に、ついお小遣いを上げてしまう。話が良いところへくると「ここから先は別料金です」と次々と父親から金を巻き上げていく息子。実は家を訪ねてきたおじさんは按摩(マッサージ師)だと知り息子に騙されたと気づく父親は、説教をするため幼い真田幸村の利発な行ないを例えに息子を諭す。
話だけではわからないからと言う息子に実際に六文銭を置いて説明すると、その六文銭さえ持ち逃げされてしまう。「それを持ってどこへ行くんだ?」と問う父に「焼き芋を買うんだ」と答える息子。「ああ、うちの真田も薩摩へ落ちた…」


兼好さんは、とにかくテンポが良くて歯切れがいい。古臭くない現代の笑いとしての古典落語を直球勝負で、衒いなく、ひたすら陽気に観ているこちらに投げ込んできてくれるので、清々しいほど文句なしに面白い落語家さんです。落語手帳に、兼好さんの魅力は「無邪気なボケキャラ」が突っ走る滑稽噺とありましたが、まさにその通り!ワル知恵のはたらく息子を、嫌味なく憎めない愛すべきキャラクターとして生き生きと演じてくれました。

いよいよ七番手は我らが柳亭市馬さんです。
市馬さんの今日の演目は「七段目」です。
【七段目】
常軌を逸するほど芝居マニアの若旦那は家業そっちのけで芝居小屋に出入りしている。
日常生活でも芝居一色、口から出る言葉は全て芝居のセリフ。
外へ出たきり帰らない若旦那に業を煮やした大旦那が、今日こそ説教をしてやろうと待ち構えていたが、得意の芝居で交わされてしまう。反省するどころか二階の部屋で芝居の練習を始める若旦那に怒った大旦那、小僧の定吉に様子を見に行かせるが、実は定吉も芝居マニアだった。
ミイラ取りがミイラに、定吉と一緒に芝居を始める若旦那だが、一旦役に入ると目が据わり本気モードに入ってしまう。ヒートアップした若旦那刀を抜いて、定吉に斬りかかる。驚いて逃げようと階段から転げ落ちてきた定吉に大旦那が駆けつける。
「さては2階で馬鹿息子と芝居の真似事か!?てっぺんから落ちたのか?」と問う大旦那に定吉「いえ、七段目です」


実は鯉昇さんと同じく「どうして市馬さんがトリを務めず七番手なの?」と疑問に思いましたが、その謎は直ぐに解けました。
今日の落語会は市馬さんの「七段目」のために催された企画なのでしょう。
私生活では昭和歌謡や剣道を愛する市馬さんですが、それと同じくらい歌舞伎が大好きな市馬さん。「七段目」は、もしかしたら市馬さんのためにある落語なのではないかと思ったほどです。
好きこそモノの上手なれという諺がありますが、市馬さんについてはまさにその通り。歌舞伎のセリフ、節回しなど、本職顔負けの上手さに本当に驚きました。
市馬さんは、本当にすごい人です。
声の良さ、間の良さ、所作の美しさ、気品、センス、色気、そして芸人として一番大切な笑いをブレなく取れる才能、全てを兼ね備えた天才です。きっと近い将来、人間国宝にもなれる落語家さんだと確信しました。

トリを務める8番手は、桃月庵白酒さんです。
演目は「富八」(御慶)。
【富八】
富くじに凝っている八五郎が年の瀬に梯子の上に鶴が止まっている夢を見た。鶴の八四五番を買おうとしたが売り切れで、帰り道、易者に占ってもらったら梯子は上に上る時に役に立つのだから鶴の五四八を買うべきだと教えられる。買ってみると千両の大当たり。新年あけて借金を返し、急場で誂えた裃を着込んで知り合いのところへ年始回りに出かける八五郎。新年の長い口上は覚えられないので短い挨拶の言葉を大家に教えてもらう。
「おめでとうございます」の変わりに「御慶(ぎょけい)」。
「どうぞお上がり下さい」と誘われたら「永日(えいじつ)」と断る。
得意になって年始回りをする八五郎だが、友人の辰っつあんに会い同じように「ぎょけい!」と叫ぶと「何を言ったかわからない」と言われ「ぎょけぇったんだ(ぎょけいといったんだ)」と叫ぶ八五郎の発音に(どこへいったんだ)と聴こえた辰っつあん「恵方参りの帰りだ」


白酒さんは、本当に声が良く通ります。広いよみうりホールの会場中に白酒さんの「ぎょけい~~っ!」「えいじつ~~っ!」が響き渡り、観客の大爆笑があとに続きます。

艶のあるいい声ではありませんが、渋さを含んだ声はとても印象的です。
相撲の呼び出しは隅田川に向ってひたすら大声を張り上げることで美声をつくると言われています。高校時代に野球部で大声をだし、ロックやブルース好きが高じ悪声に憧れ、わざわざ、潮風を浴び浜辺で声を枯らす練習をしていたと言うから驚きです。
いつものように毒のある四方山話をまくらに、古典の味わいを感じさせてくれる半面、現代的な落語のセンスを取り入れ、しっかり笑わせてくれる安心感のある落語家さんです。
「正統派の中の正統派」と言われている五街道雲助師匠のお弟子さんだと知り、改めて納得です。

人気落語家8人8笑、いろんな角度からいろんな笑いを堪能させてもらいました。
一緒に行ったSさんからは「まるで8つのオムニバス映画を観ていたようだ」と大絶賛を頂き私もホッと一安心。
もちろん、Sさんにも市馬さんをとても気に入ってもらえました。
落語を聴いて笑っていると日常の嫌なことや抱えている悩みが、本当に馬鹿らしく些細な事に思えてきます。かっこいい生き方やシビアな人生を学びたいのなら芝居や映画で学べます。しかし落語は大所高所から物事を観てかくあるべしと主張してくるものではありません。
人間は弱いもの。完璧じゃないから面白い。いいんじゃないの?ほどほどで!
もっと肩の力をぬいて生きようよ。長屋の通りから八っつあんや与太郎の声が聞こえてきそうです。

by Ricophoo | 2013-04-21 11:48 | 落語 | Comments(0)

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