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リトルフォレスト〈夏・秋)

懸賞 2014年 09月 10日 懸賞

リトルフォレスト〈夏・秋)_f0036354_22451299.jpg渋谷HUMAXシネマで森淳一さん監督・脚本の「リトル・フォレスト夏・秋編」を観てきました。
「リトル・フォレスト」は2002年から2005年にかけて講談社「月刊アフタヌーン」で連載された五十嵐大介さん作の人気コミック「リトル・フォレスト」が映画化されたものです。
この映画の舞台である小森は東北地方のとある村の中の小さな集落です。
いち子は一度は都会に出たけれど自分の居場所を見つけることができず、ここ小森に帰ってきました。
スーパーやコンビニもない小森での生活はほぼ自給自足の生活です。
稲を育て畑仕事をして、野山で採った季節の食材から毎日の食事を作ります。
生きるために食べる。そして食べるために作る。
現代の人間にとってこれほどシンプルな暮らしがあるでしょうか?
シンプルな暮らしの中で自分の生き方を見つめ直していく いち子の自然な、けれども真摯で懸命な姿に心打たれます。
大量生産・大量消費システムで都会に住む私たちはスーパーやコンビニでいつでも好きなものを好きなだけ手に入れられるようになりました。しかしそこには「生きる=食べる」という当たり前の感覚がありません。
お金を出せば何でも好きなものを買え、お腹いっぱい好きなものを食べられます。
たとえば冬に西瓜を食べたいと言えば食べられる世の中です。
その西瓜はどうやって作られたのか?どこから来たのか?どうして冬に西瓜が食べられるのか?
それを知って食べているのでしょうか?まるでブラックボックスと同じです。
それは本当に豊かな生活だといえるのでしょうか?
いち子は合鴨農法で米を作り、自らその合鴨や沢の岩魚を捌き山菜や森に自生する果実や木の実を採り、調理し、保存します。

「言葉はあてにならないけど私の体が感じたことは信じられる」

自分自身の手を、体を使ってゼロから作物を作り上げていく喜びがそこにはあります。

薪ストーブで焼く自家製パン、麹から作った甘酒にイーストを入れて作った米サワー。手を真っ赤にして作る酸っぱいグミジャム、手作りのウスターソース、ハシバミとココアペーストで作るヌテラ〈チョコペースト〉、ミズとろろ、自家製ホールトマトにアケビのサブジ風、クルミの炊き込みご飯、栗の渋川煮、干し芋、そして圧巻は飼っていた合鴨を自ら解体して料理した合鴨ステーキなど。

次々とテーブルに並べられる旬の料理の数々に、本当の豊かな生活というのはこういうことなのだと思いました。

しかし反対に作物を作るということは実に過酷なことだということもしっかりと描かれています。
作物の成長や収穫は常に天候に左右され、虫や動物と対峙しながら「生」を勝ち取っていかなければなりません。

自分が食べるために作ること、そして生きること。
他の命をいただいて生きるのだという感謝の心。自然の恵みを食べて、いち子は少しずつ生きる力を充電しているように感じます。

「自分の体でさ 実際にやったこととその中で感じたこと。自分の責任で言える事ってそれぐらいだろ?都会では、自分じゃ何もやったことないくせに、知ったつもりになっているような薄っぺらい奴らばっかりだった。」

同じ小森に住む友達のユウ太のセリフが、胸に刺さります。

この映画にはネットやスマホなどは一切出てきません。
都会に暮らしたことのあるいち子は都会の便利さやにぎやかさ、楽しさを知っているはずです。
一人で黙々と農作業を行ういち子、一人でごはんを作って一人でごはんを食べるいち子。
でも不思議といち子が孤独だとは思えないのです。
時々訪ねてくる幼なじみや茶飲み友達のおばさん達。「困ったことがあったら何でも手伝うよ」と言ってくれる優しい郵便屋さん。小さな集落の限られた人間関係の中だからこそ、かえって人と人との温かい繋がりを感じます。
ネットやLINEの中の表面的な繋がりに縋って生きている人間がこの都会にはたくさんいます。
雑踏の中にいても常に孤独を感じてしまう私達にあって、いち子の「ひとり」は決して孤立や孤独ではありません。
いち子の「ひとり」には凛とした潔さがあります。
それは自然の中で生きることに正面からぶつかっていく強さがあるからでしょう。

主演の橋本愛さんはそんないち子の芯の強さと輝きを自然に演じられています。

都会で生まれ育った私には、いち子のような自給自足の生活は、到底できませんが、いち子のように季節を感じ自然の恵みを楽しみながら、ひと手間かけた日々の暮しを丁寧に生きていけたらいいなと思います。

「リトル・フォレスト」は岩手県奥州市にて約1年間にわたってのオールロケを行っているそうです。
今回の「夏・秋編」は夏の始めから山が少し色づく秋の始め頃まででした。東北地方の四季の移ろいを写す美しい映像も併せて次回は「冬・春編」。2月の公開が今から楽しみです。

リトルフォレスト〈夏・秋)_f0036354_22572675.jpg映画を見終って無印のカフェへいくと「リトル・フォレスト」の公開記念の特別メニューが提供されていました。くるみごはんと手作りウスターソースコロッケ付、トマトサラダ。

この秋は小森の人たちを真似て栗の渋皮煮を作ってみようかな?

by Ricophoo | 2014-09-10 22:41 | 映画

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