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女松方と混沌の時代

懸賞 2011年 07月 14日 懸賞

今からかれこれ20年くらい前になるが、まだ公園デビューなる言葉が現れる少し前の話。
息子が幼稚園へ入る少し前から小学校へ上がるまでの約3年間
一応私も「タカちゃんママ」などと言われた時代があった。

公園デビューとは、子供を公園へ初めて連れて行って遊ばせることである。
税金を払っていようがいまいが公園で遊ばせるのに、なにも誰かにお伺いを立てなければならない義務も義理もないが、小さい子供を持つ母親が、隔離された安全なシェルターから、子供を連れて社会へ踏み出す第一歩がいわゆる「公園デビュー」なのである。

できることなら、安全なシェルターの中で親子二人、ずっと隠れていられたら!

しかし、人間として成長していく以上、社会とかかわりを持って生きていかなければ
ならないのだ。

母親としては、自分の子供がたくさんの友だちに囲まれて遊ぶ笑顔を見たい。そして社会にうまく順応できるような人間に育てたい…親の切なる願いである。

まあ邪気のない子供にとっては、そんなものどうでもいい話なのだが、そのためにも公園という社会は子供にとっても、親にとっても大変重要な初めての社交場となるのだ。

しかし如何せん公園には既にある程度の社会が出来上がっている。
それは誰にも抗えない。先にそこにいたものが常に偉いのである。

当然そこには、いくつかの派閥がある。子供のではなく、当然母親同士のである。
自分だけの問題ならば、自分の置かれた立場や周りの情況を的確に判断し、自分の都合のいい派閥に上手く取り入り仲間入りができるのだが、そこは子供が絡んでくると、どうしようもない。
たまたまその時間、その場にいた、同年代の子供を持つ親たちが、否が応でも、その日公園デビューで出会ったママ友となるのだ。

公園デビューは神経を使う。
できれば公園で遊ぶ皆さんに親子共々優しく広い心で受け入れられたい!!
そう思うのは、この私でもやぶさかではない。
そんなワケで、私も赤ちゃん雑誌に書いてあった、「初めて公園に子供を連れて行くときに他のお母さん達からウケのいいファッション」を勉強し、とにかく当たり障りの無い、犬のイラストのついたトレーナーにキュロットスカートといういでたちで何とか公園デビューを果たした。

f0036354_15171725.jpg初めての公園デビューでママ友になったのは、息子と同じ年の男の子のお母さん
Mさんだ。
ひみつのアッ子ちゃんに出てくる「チカ子」によく似ていた。
チカ子は、思わずマンボを踊りだしたくなるような、赤や黄色のへたくそな自作の服を着ていた。
チカ子の家は、ゴミ屋敷だった。
空き巣に300回くらい入られて家の中を引っ掻き回されたような家だった。
よく自宅へ招待された。

チカ子は甲高い声で自分の息子を叱り付け、夢中になると唾を飛ばしながら話す。
時に、チカ子はゴミだらけの台所で手作りのお菓子やケーキを作って振舞ってくれるのだが、これにはさすがの私も閉口した。
食べ物の味を感じないように飲み込む術と作り笑顔はその時に習得させてもらったといっても過言ではない。

その次に出会ったママ友は眼鏡をかけた鼻毛を気にしない阿木曜子だ。
美人で優しい人だった。
阿木曜子は少し家が遠かったので、それほど親しくはならなかったが、
惚れ惚れするような風貌なのに、いつも鼻毛がでているので、目のやり場に困ったことを今でも覚えている。自分の美しさに気がつかないのは不幸なことだと思った。

チカ子の紹介で知り合ったママ友、ちょっと貧乏臭い岡江久美子。
気さくでとてもいい人だった。
子供への虐待話を明るい笑顔でよく聞かされた。
「好きだから」と言う理由で赤ん坊にブラックコーヒーを飲ませていたのには驚いたが、旅先で駄々をこねた自分の息子を車のトランクへ入れて連れて帰ってきたという話を聞かされた時にはこんな私でも背筋が凍りついた。

他にもタロウちゃんのママやシュン君のママ、ノンちゃんのママという人たちもいた。

f0036354_15192272.jpgしかし、そんなママ友のなかにも一際異彩を放つ人物がいた。
それは「女松方」である。
なかなか、これはという松方弘樹の画像が見つからなかったので、
ここでは西部警察の大門刑事の写真を使用させてもらったが、彼女はあくまで「女松方」なのである。モコモコのおばちゃんパーマをかけ、なぜかレイバン風のサングラスをかけた二児の母。一見おばちゃん風なのだが、サングラスの奥に佇む圧倒的存在感は、まぎれもなく松方弘樹そのものだった。
なにがどうと言われると困るのだが、ただ こわかった。
普段は物静かだが、つっけんどんな物言いや低い声が更に私に恐怖を植え付けた。

女松方の長男が頭に包帯をして現れた時、何処からとも無く「女松方が息子の頭を包丁で殴った」という噂が近所中に流れたことがあったが、
皆の口から「まさか嘘だろう」という言葉が直ぐに出てこなかったのも、私の女松方への恐ろしさを増幅させていった。

女松方の家は狭い。
交通の激しい道路の横に立つ2Kのアパートだ。
その狭いアパートで、2週間に一度くらい会議が行われる。
会議といっても、近所のセンターの一室を借り、毎月のように行なわれる子供達の誕生会の段取りを決めるのだ。ケーキは何個発注して、誰が取りに行くとか、ジュースは誰が買うとかそういう他愛も無い会議だ。
狭い部屋の中には、子供も含めて15人くらいがひしめき合っていた。

そんな中でも、私にとって恐怖だったのが、会議後のレディースコミックの回し読みだった。
レディースコミックというのは、大人の女向けのHでイヤらしい漫画のことだ。
刺激的なようでいて、実は曖昧な性描写や凡庸なストーリーに当時は辟易していたため、レディースコミックを自分で買って読むようなことは、未来永劫あり得ないことだった。

しかし、女松方からの一言「次はタカちゃんママの番ね」といって否応なしに回覧板のように、名前に印をつけられ、大きな3つの手提げ袋を持たされた日には、返す言葉も無かった。
力なく肩を落とし、レディースコミックを家に持ち帰った。
誰が女松方の言葉にたてつくことが出来ようか。

子供の喧嘩や泣き声、こぼれたジュースやお菓子のかす、親の怒号とレディースコミックが飛び交う阿鼻叫喚な2Kのアパートを思い出だすと、20年経った今でもうなされる。

「名前をなくした女神」という子育てやお受験に悩み嫉妬や裏切りなどママ友たちをめぐるドラマが最近まで放映されていた。
出演者は杏さん、木村佳乃さんにモデルのりょうさん等…美人女優ばかり。ドロドロした人間関係を描いてはいたが、ドラマの中ではみんな高級マンションに住み、誰もがお洒落で素敵な暮らしや子育てをしていた。
こんなドラマは嘘だと思った。

私の周りには、杏さんも木村さんもいなかった。

女松方にチカ子に貧乏な岡江久美子そして2Kのアパートとレディースコミック・・・

まぎれもなく、これが私の「タカちゃんママ」と呼ばれた混沌の時代だった。

by Ricophoo | 2011-07-14 15:22 | その他