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ものすごくうるさくてありえないほど近い

懸賞 2012年 03月 02日 懸賞

f0036354_23272615.jpg2月18日、渋谷シネパレスでスティーブン・ダルドリー監督作品「ものすごくうるさくてありえないほど近い」を観てきました。
「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(Extremely Loud and Incredibly Close)という、なんだかわけのわからないタイトルです。
「ものすごくうるさい」ものとは?「ありえないほど近い」ものとは、一体何なのでしょう?
その意味が、映画の中に引っかかりのように隠されていて、最後には何がうるさくて、何が近いのか…観ている人たちの心の中に、ぼんやりとですが、物語を通して徐々に浮かび上がってきます。


2001年9月11日―。それは忘れもしない、世界中が恐怖と絶望に包まれたニューヨークの世界同時多発テロ。
オスカー (トーマス・ホーン)の最愛の父(トム・ハンクス)は、崩れ落ちる貿易センタービルと共に、突然この世界から消えてしまいました。
留守番電話に息子に宛てた声を残したまま…。

あの日から、帰らない父、そしてからっぽの柩のままの葬儀。
第六区を探すゲームも途中のまま・・・。

尊敬する父であり、唯一心を許し合える親友でもあった、大好きな大好きな父。

もともとアスペルガー症候群という発達障害を持つオスカーにとって、その父の死はどうしても受け入れがたいものでした。
どんどん殻に閉じこもっていくオスカーを心配する母親(サンドラ・ブロック)の優しい言葉にも反発し、ついには「死んだのが父さんじゃなく、母さんだったら良かったのに!」などと酷い言葉を言い放ってしまいます。

そして、9・11から一年、ある日オスカーは父のクローゼットで、偶然花瓶の中に隠されていた一本の鍵を発見します。
鍵を入れた封筒には“ブラック”と書かれており、これを人の名前だと考えたオスカーは、その鍵に父の死の意味を求め、またその鍵が父が自分へ残した最後のメッセージなのではないかと受け止め、その謎を解くために、1本の鍵と共にニューヨークに住む500人近い「ブラックさん」を訪ねるオスカーの旅が始まります。

アスペルガー症候群は、外界からの刺激にとても敏感になる傾向があるそうです。
健常者が気にならないような、乗り物の音、人々の話し声など、オスカーにとっては大きなストレスになります。
彼にとって、この世界は「ものすごくうるさい」のです。
公共交通機関に乗るのもオスカーにとっては一大事。心を落ち着かせるためのタンバリンを片手に、(おばあちゃんの家の間借り人(つまりおじいちゃん)という相棒を側に)オスカーは数ヶ月をかけて、ニューヨーク中を歩きます。

「他人と触れ合う事」など、自分の感情を上手くコントロールしたり、人の心を理解する事が苦手な、それまでのオスカーには、決してありえないこと。
週末を利用してニューヨーク中の一人ひとりのブラックさんに会い、事情を説明し、語り合い、心を通わせ、触れ合わなければ、鍵の謎は解けません。

オスカーのブラックさん探しの旅は、意外な形で終わりを迎えます。
ようやくたどり着いた鍵の謎を握る人物が、自分と同じく父を亡くした喪失感に苛まれている事を知り、オスカーは堰を切ったように話し始めます。
あの日、父の残した留守番電話に残した最後の声を。自分を苦しめている誰にも告げる事の出来なかった秘密を…。
余りにも残酷な記憶の吐露を…。
小さなオスカーにとって身内ではない誰かに話すことこそが、彼の心の奥の小さな部屋の氷の塊を溶かし、絶望と喪失を受け入れ、再生と成長の一歩を踏み出すための心の鍵だったのではないでしょうか。

ニューヨーク中を歩く旅の果て、様々な人々との出会いにより、孤独でひとりぽっちだと思い込んでいたオスカーは、実は多くの人々の「ありえないほど近い」愛に包まれている事。
そして「大切な何かを失ったのは自分だけではない」ことを知ります。
背負っている荷物の重さは違っても、みんな悲しみを背負って生きています。

ちょうど9.11から10年後、3.11の悲劇を経験した私たち日本人にとっても、この「ものうる」は、愛と喪失、そして生と死の意味を問う物語となって心に響いてきます。
人間は儚い存在です。
だけどどんなに辛くても、もうだめだと思っても、何度も立ち上がって再生していく、また再生できる心を持つ強い存在であることも確かなのです。

by Ricophoo | 2012-03-02 23:09 | 映画