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やっぱり時代小説でしょ

懸賞 2014年 12月 21日 懸賞

f0036354_2320211.jpg早いもので今年も残すところあとわずか。
昨年の私の中でのブームはなんといっても落語でしたが、その流れを受けつつ2014年のマイブームは時代小説一色の年となりました。
浅田次郎さんの「一刀斎夢録」や「壬生義士伝」・高田郁さんの「みをつくし料理帖シリーズ」に始まり、葉室麟さん、山本周五郎さん、藤沢周平さん、そしてついに池波正太郎さんにまで手を出してしまい、私の時代小説熱はもはや止められない危険な領域に突入してしまったようです。
なにしろ時代小説には古くから大衆に強い支持を受け読み継がれてきた膨大な作品群があるのですから…。
山本周五郎さん、藤沢周平さん、池波正太郎さん、司馬遼太郎さん等大御所と言われる方の小説はいささか古典の部類に入るとは思いますが、時代小説ですから色あせるということがありません。こうなると、もはや底なしのアリ地獄状態です。

時代小説の魅力はなんといっても現代人にはない人間の潔い生き様が描かれているところです。時代小説に登場する男はもう半端なくかっこいい!そして強い!そして女も美しく魅力的!
「おいおい今の世の中さすがにこんな男はいないだろ?」と思ってしまうほどの神がかり的に強い男、潔く誇り高い男、奥ゆかしく、けなげで可憐な女…

そんな魅力的で個性的なキャラクターを楽しむのも時代小説の醍醐味です。  
携帯やスマホの返信が遅いと言って人間関係に亀裂が入ったり、GPSで夫の居場所を確認する妻がいるなんて世知辛い話は既に過去の話題。遺伝子検査で人の体の何でもが分ってしまう世の中、IPS細胞があってもなくても私たちの日常は日進日歩、つねに急かされ時間に追われ、閉塞感に覆われて、それでもなお進み続けています。
食料も情報も生きるために必要な物を限りなく潤沢に与えてもらっているはずの現代人は、反対に生きているということさえ実感が持てずにいます。
しかし時代小説のなかの人々は、今のように豊かな時代ではなくとも生きるということに実にストイックでそして限りなく謙虚です。

また時代小説の中からは、本当に学ぶことが多く、人間として大切なこと、人間として決して失くしてはならないものを教えてくれるような気がします。

市井に生きる町人の人情ものもよし!激闘の戦国ものもよし!」サラリーマンを彷彿とさせるような武家社会ものもよし!主人公のキャラが命の浪人ものもよし!
今年は本当にたくさんの時代小説を読みまくりました。

私が今年読み終えた数ある時代小説の中で敢えて選りすぐりの1冊を上げるとしたら
迷わず葉室麟さんの「無双の花」を選びます。

「無双の花」は2012年に刊行された葉室麟さんの作品です。

豊臣秀吉に、東の本多忠勝と並び称され、「その剛勇、鎮西一」と激賞された、立花宗茂を描いた物語です。立花宗茂と言えば、大友宗麟の家臣、高橋紹運の子で、大友家の猛将 立花道雪の娘、誾千代を娶って立花家を継ぎ、その武勇を買われ筑後柳川13万石を得て、大名となりますが関ヶ原の戦いでは、九州にありながら、豊臣恩顧の大名として、石田方に与した事から所領を失って家臣と共に浪人の日々を送ります。しかしその後、徳川家に忠誠を尽くし西軍方で唯一旧領を回復した奇跡の武将です。

「無双の花」の中で描かれているのは「立花の義」。

立花の義とは「決して裏切らぬ」ということ。裏切りと策略の乱世の世では、この決して裏切らぬという「義」を貫き続けることはとても難しいことです。己の境遇に惑わされず、宗茂は決してその信念を曲げずに生き続けます。

猛将 道雪の血を引く男勝りの妻、誾千代とも、またこの「立花の義」を通して、深く繋がっていました。愛し合うだけの夫婦愛ではなく、共に「義」を貫く同志愛として描かれている所がとにかくカッコいいのです。

お前様―。」呼びかける誾千代の声がかすれた。
「なんじゃ」
「お前様は西国無双の武将にございます。必ずや返り咲いて誰にも負けぬ無双の花を咲かせて下さりませ」 
「そなたを迎えに参る日が必ず来よう。それゆえ、さらばとは言わぬぞ」
「お待ちいたしておりまする」

これは部屋越しに交わす宗茂と病床の誾千代との永の別れのシーンで私の大好きなシーンでもあります。
「裏切らない」と言いつつ宗茂は豊臣に仕えたのち徳川に忠誠を誓うことになります。宗茂にとって主君は豊臣でも徳川でもいいのです。つまりは戦のない世の中、泰平の世を求めることこそがすなわち「立花の義」であったわけです。

「天下は天下のための天下。一人の天下にあらず」これは今年の大河ドラマ「軍師官兵衛」のクライマックスシーンでの家康の名言ですが、無双の花の中での宗茂と家康とのやりとりにも心揺さぶられるシーンが沢山出てきます。

「わしの旗印を<厭離穢土欣求浄土>としておるのは汚れしこの世を厭い、清き世を求めてのことじゃ。この世から戦を無くさねばならぬと思えばこそ、わしは汚い手を使うてでも天下を取らねばならぬと意を決したのじゃ。跡を継ぐ者にかような戦をしたいと思わせぬようにわしは手を尽くす。秀忠を跡継ぎにいたしたのも、戦が下手だからじゃ。秀忠は無用の戦をせぬであろうゆえな」
「立花はひとを裏切らぬという義を立てていると聞くが、泰平の世を作るためには手を汚すを恐れぬが徳川の義ぞ。とは言うものの、汚きことをいたせば、その報いも必ずある。心はすさみ、欲にまみれていく。じゃが、立花はまみれなんだ。そなたを召し抱えたのは直ぐなる心根のほどを見極めたからじゃ」
「それがしになにをせよと仰せにござりますか?」
「秀忠とやがて将軍になる世嗣の傍を離れるな。決してひとを裏切らぬ立花の義を世に知らしめよ。さすれば秀忠と次なる将軍もひとを信じることができよう。そなたは泰平の世の画竜点睛となれ」
家康は天下を見守り、ひととしての在りようを示すことを宗茂に求めているのだ。「身に余るお言葉にござりまする」
「それが西国無双、立花宗茂のつとめぞ」
家康は静かに言うなり踵を返して陣所へと戻って行った。


共に泰平の世を求めて止まない「義」を貫く男たちの魂の会話に痺れました。

家康の言葉どおりに秀忠を支え徳川家に仕えた宗茂は将軍職を辞していく秀忠に言います。

「上様はようお努めになられました」
「わしは生来、凡庸であった。戦には勝てず、大名を威伏させるほどの力もなかった。ただ懸命に努めて生きてまいっただけであった気がいたす。」秀忠は苦笑した。宗茂はなだめるように明るく返答した。
「それは誰しもが同じでござりまする。神君家康様は耐え難きを忍ばれ、ひたすら地道に戦の無い世を望まれ、懸命に歩まれました。それ故にこそ織田信長公や太閤も為しえなかった泰平の世を切り開かれたのでございます。」
「さように思うてよいであろうか?」秀忠は少し安堵した表情を浮かべた。
「世は努めることを止めぬ凡庸なる力によって成り立っておるかと存じまする」



「私自身が派手な人間ではありませんから、地味な立場の人の気持ちがよくわかるのです。社会というのは一人の英雄とか豪傑がつくっているのではなく、普通の人が寄り集まって、なんとかかんとか支えている。目立たなくても自分のやるべきことをきちんとやる。結局私は、普通の人が普通に努力して生きていくことが一番大切なんだというごく単純なことが言いたくて書いているんですね」。
何かのインタビューで葉室さんがおっしゃっていた言葉です。

葉室さんの作品が持つ温かみと読後感の良さは葉室さんのお人柄がすべてにわたり反映されているのだと実感しました。

葉室さんの作品はどの作品もきりりと背筋の伸びた、最後にはさわやかな一陣の風が吹くようなそんな素敵な作品ばかりです。

by Ricophoo | 2014-12-21 23:28 | | Comments(0)