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ウルトラマラソンへの道 その6 ~激闘編~

懸賞 2008年 05月 03日 懸賞

話を本題にもどします。
その後、25、6キロ付近で前を走る宮○さんに追いつきました。
少し疲れたのか時々歩きを入れながらでも頑張っている宮○さんと、エールを交換して別れ、一路河口湖を目差します。
多少の痛みが顔を覗かせてはいたものの、まだこの頃は
スタミナも十分。いいリズムを刻みながら走る事ができました。
少し気温も上がってきました。
27キロ地点で上に着ていたウィンドブレーカーを脱ぎ、エイドに預けました。
山中湖から河口湖への道は下り坂が多く、道も平坦で走りやすかったですが
交通規制など何もないので、脇を走る車を気にしながら走るのは、かなりなストレスでした。
そして、44キロを過ぎた頃、視界がぱっと開けました。
前方に目をやると、なんと真っ白い雪化粧の富士山が、その神々しい姿を私達の前に現してくれたのです。
ウルトラマラソンへの道 その6 ~激闘編~_f0036354_20324436.jpgずっと富士山のふもとを走っているのに、雨と霧でなかなかその姿を見ることが出来ず少しがっかりしていた時でした。
こんなに間近で、こんなに美しい富士山を眺めることができるなんて!!
しかも辺りは桜が満開、他にもヤマブキやモモの花が咲き乱れ、富士山と美しい花に酔いしれ、感動でつい走っていることさえ忘れてしまいそうでした。

50キロ地点。
それは一瞬の出来事でした。アスファルトの小さなデコボコに躓き、転倒。
顎と両膝を強打してしまいました。
転んだ瞬間は、なにが起こったのか判らず、しばらくうつぶせに倒れていました。
疲れが出始め、足が無意識のうちに上がらなくなっていたのでしょう。
激痛に顔が歪み、自分の情けなさに涙が出てきました。
「大丈夫…?」と心配してくれるお師匠様に向かい
ひとことも言葉を発することが出来ず、ただ頷きながら顔の前で手をパタパタと横に振るのがやっとでした。
足元を見るとタイツも破れていませんでしたし、手袋をはめていたので、流血するほどの怪我ではなくホッとしましたが、なにしろ膝が痛い…
このままあと50キロも走れるのか…大きな不安と惨めさで
涙がポロポロと出てきました。
「大丈夫?」心配顔のお師匠様が聞いてきますが、言葉が出ません。
(こんな山の中に自分は転びに来たのか?こんな所で止めてしまうのは嫌だ。絶対に嫌だ!)
とにかく自分自身の心に負けたくはありませんでした。
痛みを堪えながら、ゆっくり立ち上がり、誰に発する訳ではなく、大声で叫びました。
「絶対負けない!」「負けるもんか!!」叫んだというより吠えたと言った方が近いかもしれません。
ウルトラマラソンへの道 その6 ~激闘編~_f0036354_20425463.jpg虎は千里の道を行き、千里の道を帰ってくると言います。
寅年女の底力、本領発揮です。
人間万事塞翁が午。転んだことで、絶対に走りきってやるという強い信念が沸き起こりました。
ただ前だけを見つめて、走り出しました。
その一足が道となり、その一足が道となる…。
そうだ、迷わず行くのだ。
集中力で西湖への上り、いくつものトンネルをやり過ごし、とうとう本栖湖69キロの
着替えポイントまでやってきました。

着替えポイントでは、着替えは行ないませんでした。
これから後半、どのくらいペースが落ちて、どのくらいの時間を要するのか判断できなかったからです。夕方になってしまえば確実に汗で体が冷えていきます。今着ている長袖アンダーアーマーはそのまま、タイツもそのまま。実は着替えなかったというより、着替えるという動作が出来なかったというのが本当のところです。
ウエストポーチの中のパワージェルも更に6個追加しました。
また、預けていた荷物の中にプロテインの入ったボトルを入れていたので水で溶かし、ジェルを混入しシェイクして飲みました。エイドではうどんやおにぎりやパンなどが出ましたが、なんとなく受け付けず、バナナやオレンジ、ウメボシばかりを食べていたので、満腹感がありませんでした。なので講習会で教えてもらったこのプロティン補給は、液体でありながらお腹にたまるような満足感が得られました。

ウルトラマラソンへの道 その6 ~激闘編~_f0036354_15315860.jpg着替えポイントでは、応援ボードのコーナーがありました。
前日ニューバランスのブースで自分への応援メッセージを書きました。
私のボードは見つけられませんでしたが、お師匠様のボードが見つかりました。
「自分に負ける」と大きく書いていたので大笑い。


実は書くスペースがなくなって小さな字で「な」と追加してありました。
こんなところでもお師匠様には笑わせてもらいました。
さあ、後半戦!ここから折り返し、気合を入れて…爆走!と行きたかったのですが、
60キロ過ぎからのエイドやトイレの後のリスタートは、もはや半端な苦しみではなくなっていました。
ウルトラマラソンへの道 その6 ~激闘編~_f0036354_15371979.jpgもう足の筋肉がカチカチにこわばり固まって古タイヤのゴムのようになっています。
走り出して5分くらいすると、痛みは少しだけ弱まっていきます。
エイドごとにその地獄の苦しみは訪れます。エイドで立ち止まらずに走り続ければどんなに楽でしょう…。
しかし、後半のエイドは既に心のより所となっていました。

「1キロ先にエイドあり」の表示を見つけるたびに、確実に歩を進められ、
折れそうな気持に希望の光が差してきます。
天国と地獄の繰りかえし…とにかく地獄での拷問をどうしたら少しでも緩和できるのか…考えることはそればかりでした。

そんな中でも、折り返しでは、Lindaさん、お師匠様の知人の○藤さん、宮○さん
そして講習会でお世話になったアートスポーツの鈴木さんとすれ違い、エールを送り合い
皆さんからたくさんのパワーを頂きました。

ウルトラマラソンへの道 その6 ~激闘編~_f0036354_20472538.jpg80キロ過ぎ。お師匠様の激が飛びます。「あとハーフを1本走れば終わり!行くぞ~!」
お師匠様は相変わらず元気です。
このころは、もう何も考えずただ足を機械的に前に動かすだけでした。
走りながら村上春樹さんのエッセイ「走ることについて語るときに僕の語ること」を思い出しました。
村上さんが初めてサロマに挑戦されたときのことを書かれた章に、まさにあの時の自分の状態そのままを表す一節がありました。

『こんなに長い時間走り続けているのだから、肉体的に苦しくないわけがない。
でもその頃には疲れているということは、僕にとってそれほど重大な問題ではなくなってしまっていた。疲弊していることがいわば「常態」として僕の中に自然に受け入れられていったと言うことかも知れない。一時は沸き立っていた筋肉の革命議会も、今ある状態について、いちいち苦情を申し立てることを諦めたようだった。もう誰もテーブルを叩かず、誰もコップを投げなかった。彼らはその疲弊を、歴史的必然として革命的成果としてただ黙して受容していた…』

90キロ…あと10キロです。もう随分ペースが落ちています。
キロ8分くらいかもしれません。「あと皇居2周だよ!」お師匠様が励ましてくれます。
皇居2周ならなんとか行けるかも知れない…。
だけどそう思ったのは大きな間違い。
残り7キロの果てしなく続く坂の事をすっかり忘れていました。
坂道に入り、お師匠様は40mくらい前を走っていきました。
ランナーが目の前からいなくなる瞬間もたびたび訪れるようになりました。
辺りは鬱蒼とした山道です。まだ時間は4時前…。
これから日が沈みだんだん暗くなってくるでしょう。
見渡しても街灯などなく淋しい山道です。暗闇の恐怖と寒さを想像しました。

日が沈み真っ暗になった山道を女性一人で走り続けるランナーもまだたくさんいるのだと思ったら、明るいうちにココを通れたことが本当に幸せだと感じました。
ラスト7キロ。やはり噂どおり思っていた以上に辛く厳しい坂道でした。
いくら足を前に出してなかなか前に進みません。
歩いているんだか走っているんだか判らない速度ですが
とにかく自分的には走っていたつもりです。
時々遠くからお師匠様が私を振り返ります。
歩いているんじゃないかと思われるのが嫌で
一歩一歩苦しくても歩を進めました。

周りをみるとみんな歩いています。
歩いたほうが賢明なのかも・・・・?
歩こうか…?
歩いたって構わないよね?
だってもうすぐゴールだし…。
小さな悪魔が耳元で囁きます。
そしてとうとう、歩きの誘惑に我慢できず
先を行くお師匠様に
「歩いてもいい?」と禁断の一言を発してしまいました。
お師匠様は振り返り、ニッコリ笑って
「いいよ、歩こう。ここまでがんばったんだから」
と言われました。
だけど、結局私は歩きませんでした。
ここまで歩かずに走ってきたのだから、やっぱり最後まで走りたい。
重い足をとにかく前に出しました。
しかしこの坂はどこまで続くのか・・・7キロってこんなに長かったっけ??
く、苦しい、辛い…。
そう思った瞬間、前を走る人の姿が少し縮んだように感じました。
もしや下り??
や、やった~!下りだ!下り坂なんだ!!

最終エイドであと1.9キロと聞いて、急に元気が出てきました。
下り坂を一気に駆け下りようと思いましたが、一足一足慎重に走りました。
ここで転んで前に進めなくなったら笑うに笑えなくなってしまいます。
競技場のアナウンスの声が大きく聞こえてきました。
もうすぐゴールです。
カーブを曲がり、北麓公園のゲートが見えてきました。
既にゴールした人、応援の人たちが、歩道で私達を見ながら、笑顔で「お帰りなさい~!」と声をかけてくださいました。
やっと帰ってきたんだ…。
100キロの距離を走りぬいたんだ・・・。
これで長かった旅が終るんだ…。
競技場のトラックを周りながら
感動と達成感で涙が出てきました。

お師匠様と手をとってゴールテープを切りました。
時間は11時間49分でした。
長い長いウルトラの旅が終りました。
ウルトラマラソンへの道 その6 ~激闘編~_f0036354_15343446.jpg
目の前には美しい富士山が涙で滲んでいました…。
「この辛く厳しい旅を見守ってくださり本当にありがとうございました。」
富士山に一礼、そしてお師匠様に一礼、そして振り返って今までの長い道のりに深く深くお辞儀をしました。
ウルトラの世界は思っていた以上に辛く厳しい世界でした。
でもそれ以上に素晴らしい景色を身体で、心で感じることができました。
自分を信じる心、諦めない心の大切さを知りました。
どんなに辛いことがあっても、トンネルには必ず出口があるように
止まない雨はないように、スタートがあれば必ずゴールはあるのです。
一歩一歩の足を止めない限り。

by Ricophoo | 2008-05-03 15:07 | スポーツ

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